2011/04/20

Review: Hiro / Amalthea - split CD

HIRO / AMALTHEA - split CD

これは、重要なテーマを扱った作品だ。それが、意図されたものかは不明だが、両バンドが同じテーマを持ち寄っている。そのテーマとは、この世界における人々の「憂鬱」→「苦痛」→「自殺」といった社会的「事」の過程である。まずは、両バンドの解説の一部を以下に転載する:


「そのことに関して話すことなく、多くの人々が憂鬱に生きている。この心の状態は、憂鬱になった人々が助けを求めたがらないので扱うことが非常に難しい。彼らは、自殺しようとするまで、体面を保ち笑うことを好む。」 - Hiro "Demain ne mene a rien"


「このレコードの Amalthea による曲は、人々がますます孤独であると感じ、遠ざけられ、気を滅入らせられ遂には倒れるという事実を扱った曲である。」 - Amalthea "We are comedians" "We smile in denial" "We share laughter and torment"


我々は世界の誰からも相手にされていないと感じるとき、あるいは、いわゆる「仲間」がいてもその中で誰からも相手にされてないと感じるとき、このような「憂鬱」や「苦痛」といった感情を抱き、遂には「自殺」という選択肢を選ぶことがある。なぜ、我々は「憂鬱」や「苦痛」を共有できないのだろうか? その背景には、我々のあらゆる「社会的悪習」がとぐろを巻いて渦巻いている。そしてそれは、この社会制度の「伝統」や「秩序」や「抑制」や「優越」や「誇り」といった「イメージ」に依っている。さらに、Hiro は、こうした我々の問題を、「目に見えるところ」だけに止まらせず、この社会制度そのものを打ち壊すべく、"Refoules" の解説で、「難民」について以下のように述べている:


「この曲は、難民を扱っている。その内の一人である若いケニア人は、フランス政府が強制送還を決めた後、監獄の中で自殺した。この事実は、そうした人々の苦悩を示している。俺たちは、人間として彼らを扱わなければならない。目を閉じる代わりに、感情移入によって。」 - Hiro "Refoules"


我々はどれくらい知っているのだろうか? こうした難民を始めとして、今も戦争によって「豊かな国」以外のどこかで殺される人々、今も監獄に人里知れずブチこまれる人々、今も野宿生活を余儀なくされ社会から虫けらのように扱われる人々、今も家長制下の「家」で密かに悩まされる人々のことを。我々は、この社会制度の「イメージ」という名の「掟」を破らないかぎり、彼らの「現実」を知ることはまずできない。だが、我々と彼らの「現実」は「裏腹」ではない。もう一度言おう: 我々は世界の誰からも相手にされていないと感じるとき、あるいは、いわゆる「仲間」がいてもその中で誰からも相手にされてないと感じるとき、このような「憂鬱」や「苦痛」といった感情を抱き、遂には「自殺」という選択肢を選ぶことがある。つまり、「我々みな」の「現実」は、「何処か」で確実に繋がっているし、「個人的な問題」に還元されない。ただし、我々が以下の Amalthea の曲名を心に刻もうとするかぎり。この意味において、我々は「ギャグ」のようなこの世界で「ギャグ」を言うこと (なぞること) をやめる努力をしなければならないのかもしれない :


「私たちはコメディアンだ。私たちは否定しながら笑う。私たちは冗談 (笑い) と苦痛を共有する。」 - Amalthea


しかし、こうしたテーマは真に、人と人との「現実」がない「音楽だけのパンク」を越える可能性を持っていると思う。


最後に両バンドの音楽的な説明で終わりたいが、そのサウンドも感動的にかっこよいのだ。とりわけ、ex-Gantz のメンバーによるフランスの Hiro は、単に「エモーショナル・ハードコア」と説明するのが申し訳なくなる。前作・Brume Retina との split も素晴らしかったが、今作の全3曲はそれの何倍も
──である。これほど「熱情」「詩情」「緊張感」と三拍子揃った、攻撃的で冷静沈着な「エモーショナル・ハードコア」は最近では珍しい。個人的には、タイプは多少違うが、同じフランスの Hyacinth と同等のテンションを感じさせ、タメをはるぐらい気に入っている。Gantz はもちろん、その Hyacinth、あるいは、Amanda Woodward、Catharsis 辺りのファンにまですべて薦めたい。そして、スウェーデンの Amaltheaは、1つの単独7"、1つの split 7"、1つのアルバムに続く新作で、こちらも全3曲を収録。前作のアルバムは末聴だが、既に聴いていた split 7" w/ Only For The Sake Of Aching と比べると、よりエピックに、よりメロディアスになった印象を受ける。音的な好みでは、前者・Hiro だが、上記のテーマにも合った音作りで、かなり気持ちが熱くなる。スウィートな声質の唄/絶叫/咆哮のトリプル・ヴォーカリゼーションの異質なコンビネーションがまたこのバンドの印象を強くしている。

本当に両バンド共、サウンド・歌詞ひっくるめて尋常じゃない、のだ。


Old Skool Kids / Impure Musik


Year Released: 2008

本レビューは2008年に書かれたものをそのまま転載した (出自は Acclaim Collective (A) Website)。

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